ねじの話 「止め輪」 第一回 止め輪とは?
みなさんは「止め輪(とめわ)」という締結部品をご存じでしょうか。見た目はシンプルでも、機械の安全性や耐久性を支える「縁の下の力持ち」といえる存在です。今回はこの「止め輪」について見てみましょう。
ねじの話 「止め輪」
第一回 止め輪とは?(本稿)
第二回 止め輪の種類 軸用(近日公開)
第三回 止め輪の種類 穴用と止め輪の取付方向(近日公開)
第四回 止め輪の種類 特殊機能付きの止め輪(近日公開)
第五回 止め輪の材料(近日公開)
第六回 止め輪の熱処理・表面処理(近日公開)
英語では Retaining Ring (リテーリングリング)や Snap Ring(スナップリング) と呼ばれる締結資材が「止め輪(とめわ)」です。日常生活の中ではなかなか直接目にすることはないかもしれません。しかし扉の画像の時計を含め、自動車、家電、スマートフォン、遊具、産業機械など、身近な機械の内部では必ずといってよいほど使われている、とても重要な機械要素です。
止め輪の基本的な役割
機械の中には「回転する軸」と「それに取り付けられる部品」が数多く存在します。歯車、ベアリング、プーリーなどがその例です。これらの部品を所定の位置に固定し、外れないようにするために使われるのが「止め輪」です。
止め輪は、小さな「輪」の形をした金属部品で、基本的には軸や穴にはめ込まれて、部品がそれ以上移動しないように「物理的なストッパー」として働きます。より正確に言うと、溝形状・接触角・弾性によって荷重を受ける軸方向荷重(スラスト荷重)を受け止める機械的拘束要素です。

機械は多くの場合、シャフト(回転軸)や穴の中に部品を組み合わせて動いています。例えば、時計。また、自転車の車輪や自動車のギアボックス、プリンターのローラーなどで回転する部品は必ず軸に支えられています。
しかし、単に部品を軸に通しただけでは、荷重や振動の影響で少しずつ所定の位置からずれてしまい、やがて部品が外れる可能性があります。もしこれが走行中の自動車のブレーキやトランスミッションの中で起きたら、大事故につながりかねません。
そこで止め輪の出番です。止め輪はシャフトや穴の溝に取り付けられ、「それ以上動かないように溝側壁でスラスト荷重を受ける役割を果たす」ことで部品を安全に固定します。ボルトやナットのような「ねじ」の仕組みを使わず、薄いリング状の部品をはめ込むだけで溝形状と止め輪の弾性反力により、所定の軸方向保持力を確保できます。
止め輪は身近な製品に使われている!
止め輪が多用される一例が自動車です。自動車には数万点もの部品が使われています。その中で多くの部品が回転運動をしているため、数百点の「止め輪」が採用されることも珍しくありません。例えば、
• エンジン内部:ピストンピンの固定に止め輪が使われます。もしこれが外れると、エンジンが破損して走行不能になります。
• トランスミッション:ギアやベアリングの位置決めに欠かせません。数ミリの止め輪が、車のスムーズな変速を支えます。
• サスペンションやステアリング:振動や衝撃を受ける部分でも、止め輪が部品のずれを防ぎます。
このように、止め輪は機械の信頼性を支える、なくてはならない大切な存在です。

止め輪は自動車だけでなく、私たちの身近な生活用品の中にもたくさん使用されています。
• 自転車:ペダルやハブ、変速機の内部で部品の位置を保つのに使われます。
• 家電製品:扇風機のモーターや掃除機のローラー、プリンターのギアなど、モーターを使う機械には必ずといってよいほど多用されています。
• 時計:ゼンマイ仕掛けや小型モーターの中にも止め輪が使われています。

普段は内側に隠れていて気づきませんが、実は「止め輪」は多くの機械の中で働いています。
小さな部品と書きましたが、製品と比べると「小さい」のであって、サイズは様々です。


なぜ止め輪が選ばれる?
止め輪には以下のような利点があります。
1.回転部品の軸方向のずれ防止
回転部品は遠心力や荷重の変動によって軸方向に動こうとします。止め輪は簡単な仕組みながらこれを効果的に防ぎます。
2.簡易で省スペースな固定方法
ボルトやピンを使うと場所を取り組立も複雑になる場所で、止め輪は「溝加工+リング」で済みます。簡便で、軽量化・小型化に最適です。
3.着脱性の良さ
例えば、C形止め輪はスナップリングプライヤと呼ばれる専用工具を使えば比較的容易に着脱できます。メンテナンスの容易さも止め輪の重要な利点です。
4.高い経済性
止め輪は小さいながら強度的に十分な性能を持ち安価に量産できます。多くの機械で採用されているのはコストメリットも大きな理由です。
止め輪に求められる機械的性質
止め輪はシンプルですが、求められている機能を果たすためには次のような機械的特性が求められます。
高い弾性:
止め輪は溝にはめ込む際に広げたり縮めたりでき、かつ元の形に戻る必要があります。
耐摩耗性:
部品に繰り返し接触する止め輪は、摩耗に強くなければなりません。
疲労強度:
止め輪は着脱や繰り返し荷重に耐えることが必要です。
保持力と信頼性:
止め輪には軸や穴の溝に確実に密着し、想定される荷重に耐える構造も求められます。
「止め輪」を正しく用いるために
他の締結部品も同様ですが、止め輪も設計上の能力を十分発揮させて安心・安全な製品を製造するには、止め輪を正しく使う必要があります。
止め輪には次のような不具合事例があるため、溝加工や装着作業時の取り扱い、また、表面の状態には特に注意すべきです。
●溝幅不足 → 止め輪が完全に座らず脱落
●溝角R過大 → 接触面積減少
●過拡張組付け → 初期保持力不足
●表面処理不適合 → 腐食→疲労破断
次回予告
止め輪は様々な所で役目を果たすために多様な形状をしています。次回からはそのバリエーションを見てみましょう。


















