ボルトはリユース、それともリサイクル?後編
「ボルトはリユース、それともリサイクル?前編」ではねじの専門会社として皆さんの命と安全を守るために、安易にボルトのリユースは推奨できない理由をボルトの機能や「降伏」からお話ししました。不用意に、あるいは意図的に降伏点を超える過大なトルクで締結されたボルトのリユース(再利用)は決して出来ないことをご理解いただけたと思います。
ボルトの再利用を妨げる他の要因
ボルト締結時の過大な締結トルク以外にもボルトの再利用を妨げる要因があります。最初に挙がるのがボルト接合部の磨耗や引っぱりに影響する様々な“外力”です。大きな外力で生じる軸方向の引張力や軸の左右から加わるせん断力を受けて、ボルトが降伏する(伸びて変形し元に戻らなくなる)場合があります。一度の衝撃でなくても繰り返される“振動”による目に見えないダメージが金属疲労として蓄積され、疲労破壊を起こします。また“熱”もボルトに影響を与えます。寒暖の差は膨張収縮を繰り返すことで金属疲労を起こしますし、高熱はボルトの金属組織に影響し脆化させます。汚れやゴミ、また外部の潤滑油によって引き起こされる“汚染”も、特定の荷重を変化させ後々問題を引き起こす可能性があります。(こちらのブログもご覧ください)
リユース(再利用)可能なボルトを
確認する簡単な方法はありますか?
自己責任においてボルトのリユースを決断した場合、リユース可能なボルトを見分ける実際的な方法があるでしょうか?特別な工具を必要としない一般ユーザーが実行できる簡単な方法をご紹介いたします。
先ず外観上の異常―損傷や腐食、コーティングや塗装の剥がれーがないかを確認してください。もし異常があるなら、そのボルトは決して再利用しないでください。
次いで再利用を検討しているボルトに新品のナットをねじ込んでみてください。これはボルトが降伏したかどうかを判断する最も簡単な方法といえます。ナットがボルトのネジ山全体にねじ込まれない場合は、ボルトが降伏しているので、そのボルトを再利用できません。また、ボルトの軸の「くびれ」もボルトが降伏した証拠となります。この場合も再利用はできません。
丁寧な初期インストールは、
ボルトのリユース性を向上します。
ボルトを取り付ける“初期インストール”には細心の注意を払ってください。そうするならねじに不要のストレスを掛けずに済みリユースできる可能性を高めます。ねじ山を潰したり軸を曲げたりしないように、ナット(雌ねじ)と慎重にかみ合わせ手でねじ込み始めます。次いで工具を使ってしっかり締め付けますが、柄の長い工具や柄を延長して締め付ける場合は特に注意が必要です。大きな締め付けトルクを得やすい反面、オーバートルク(締め過ぎ)になりやすいです。ボルトが降伏しないよう細心の注意を払いましょう。締付けの最終段階でトルクレンチを使うのはオーバートルクを防ぐために有効な手段です。ファスナーを取り付ける際は、必ず製造元の指示に従ってください。
ボルトのリユース
確かにファスナーの再利用は、多くのアプリケーションにとって珍しいことではありません。なぜならそのアプリケーション繰り返し利用を前提に設計されているからです。例えば、自動車のラグナット(ホイールナット)は何の影響もなく定期的に外され再び組み込まれます。それでもメーカーの指示通りに適切に再トルクが掛けられることが前提となっています。例えばラグナットは100キロメートル走行後に、適正なトルクに締め直す(増し締めする)ことが定められています。ここで留意したいのは、この例のように再利用できるファスナーは“繰り返し利用や再利用を前提で製造され利用されている”ということです。
このような再利用前提のファスナーの場合を除き、ファスナーメーカーはお客様の安全と命を守るために基本的には再利用を推奨しておりません。
それでリユースは利用者の自己責任で、となります。その際には重大な事故を防ぎ、皆さんの生命・安全を守るために、そのボルトの用途を検討することは大変重要です。次の点を決して忘れないでください。
重要な用途でボルトは決して再利用すべきではありません。
ボルトの破損は時に命を奪う事故につながることがあります。そのファスナーが再利用を前提としていないなら、重要なアプリケーションにおいては信頼できる新品のファスナーを是非使用してください。また、上記のテストで問題なくても、どのような力が加わったか誰も確認できないボルトの場合は、重要なアプリケーションの締結には決して再利用しないでください。前編で問いかけた質問を覚えておられますか?
ジョイントの不具合で、人体に危険を及ぼしませんか?
ジョイントの不具合で、大きなコストが発生することはありませんか?
この二つの重要な質問の答えのいずれかあるいは両方が「はい」となるのであれば迷わず新品のファスナーへ交換なさってください。新しいボルトに交換することは、現実には再利用ボルトを使用した際に接合部が破損して大きなダメージを被るよりも、長期的な費用対効果が高くなります。
ボルトをリユースするなら
慎重に検討してボルトを再使用することにしたのなら、取り付け工具や作業方法にも特別な注意を払ってください。きれいに清掃し、潤滑剤の使用が指定されていればきちんと塗布してください。ナットやボルトを再使用する際には摩耗により摩擦抵抗が増えるので、適正な軸力を得るために締め付けトルクを増やす必要があります。正確な締め付け方法により安全性が高まります。
ボルトを再利用できるかどうかを判断するには多くの要素を考慮する必要がある、とご理解いただけたと思います。これらは命を守る安全な締結のためにとても重要なことです。是非実行してください。
ボルトはリサイクル!
ボルトがリユースできないと判断したなら、どうぞ “廃棄”ではなく“リサイクル”してください。
“鉄屑(スクラップ)”を電気の熱で溶かして再利用する「電炉」を用いる鉄の製法では、「高炉」で鉄鉱石とコークスを混ぜて溶かす製法に比べ二酸化炭素を最大で約70%削減できるようです。それで、鉄屑はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)の目標を達成するために“グリーン素材”として脚光を浴びています。
皆さんのオフィス・事業所では、既にねじ・ファスナー類を「金属屑」として分別しリサイクルしておられることと思います。ご家庭でも自治体のルールに従って、リユースしない“ねじ”は単なるゴミではなく“資源”としてリサイクルするようになさってください。
とっても小さなことかもしれませんが、緑の地球を残し次の世代の笑顔を守るため、“ねじ”は廃棄ではなく“リサイクル”を是非心がけてください。
“ねじはリサイクル”で
緑の地球を繋ぎ止めよう!