ステンレス鋼ファスナーの「かじり」対策

ねじ締結の際の「かじり」は大きなトラブルに繋がることがあります。今回は「かじり」やすいステンレス鋼製ファスナーのその理由と防止策についてお話します。

「かじり」って?

ねじ締めをしていてリセス(ねじ頭にある十字や六角の駆動溝)を破損してしまうこと「なめる」と言うのをご存じの方は多いと思います。では「かじり」はいかがですか?
例えばステンレスのボルトやナットをインパクトレンチなどで急激に締め付けると、おねじとめねじが密着し動かなくなることがあります。この現象が「かじり」です。

ステンレスファスナーに生じた「かじり」

そのまま無理に締め付けていくとボルトが折れてしまうこともあります。こうなってしまうとねじ穴に残ったボルト(おねじ)を取り除くためには大変な労力が必要です。時には機器が破損し、最悪の場合は使用不能になることもあります。

「かじり」のメカニズム

「焼き付き」などとも言われる「かじり(英語 galling)」は、接触している 2つの金属が互いに付着する一種の冷間溶接プロセスとも言われます。発生すると金属表面同士が融着して一体化するので、引き剥がすのは困難です。また、ねじ締結以外の様々な場面でも「かじり」は発生しています。

「かじり」の主な原因は金属の表面同士が擦れた際に発生する「摩擦熱」と言われています。接触する2つの金属面の潤滑が不十分であれば、かじり損傷の生じる可能性が高くなります。また、小さな金属片や金属粉などが接触部に入り込むこともかじり損傷の生じる原因の一つです。一般的な傾向として柔らかい材料程かじりを起こしやすく、硬い程かじりにくくなります。

ねじ締結における「かじり」は締め付け時のねじ山同士の摩擦熱が主な原因です。発生した熱によりねじ部が膨張し、ねじ山同士の密着が高まります。更に締め続けると摩擦熱が高くなりねじ山表面が互いに溶融(溶着)してしまいます。特にチタン、アルミニウム、およびステンレス鋼のファスナーは「かじり」やすく厄介な問題を起こしやすいことで知られています。これらの金属表面に生じる保護酸化被膜(不動態被膜)はかじりをある程度防止しますが、金属面の接触圧力が大きくなるほど被膜が損傷を受けやすくなり、かじりが始まる可能性が高くなります。

ステンレスファスナーは「かじり」易い?

ステンレス鋼は摩擦係数が高く(鉄鋼材の約2倍と言われています)摩擦熱が発生しやすい金属です。また、ステンレス鋼は熱を伝えにくい(熱伝導率が低い)金属です。冬にステンレス製品を触っても他の金属のような冷たさを感じないのはそのためです。この性質を利用してお風呂や魔法瓶などの保温性を必要とする容器に利用されています。

ステンレス鋼SUS304を例に見てみましょう。ファスナーや他の様々な製品で広く用いられている一般的なステンレス鋼です。スプーンやフォークに18-8と刻印がされていればSUS304製です。この刻印はクロム(Cr)を18%、ニッケル(Ni)を8%含んでいることを示しています。SUS304の熱伝導率は0.16【(W/m・℃)×10²】と機械構造用炭素鋼鋼材のS45Cの0.44に比べ約1/3です。また、ステンレスの熱膨張率(線膨張率)もかじりやすさに影響を与えています。SUS304の17.3(10−6/℃)という値はS45Cの10.7(10−6/℃)の約1.6倍で同じ熱量でより膨張しやすいことがわかります。

まとめると、ステンレス製ファスナーはねじ締め時に他の金属製ファスナーより摩擦熱が発生しやすく、熱伝導率も低いため熱が局所に留まって高温となり大きな熱膨張を引き起こしやすいので、その結果かじり(焼き付き)やすいという訳です。

参考:ステンレス鋼
ステンレスはかつて日本では「不銹鋼(ふしゅうこう)」という名で呼ばれていました。現在ではステンレス鋼(英語 stainless steel)が正式名称とされています。ステンレス鋼は「錆び難い」ですが、決して「錆びない」金属ではありません。ステンレスは主成分の鉄(Fe)は50%以上、クロム(Cr)の含有量が10.5%以上、炭素(C)の含有量が1.2 % 以下の合金と定められています。添加されたクロムが酸素と結合して表面に数ナノメートル(1nm=0.000001mm)のごく薄い、しかし強靭な保護皮膜 (不動態皮膜)を生成し錆の進行を防ぎます。この不動態皮膜は傷ついても周囲に酸素があれば自動的に再生するのでステンレス鋼は非常に錆にくくなっています。耐熱性・加工性・強度や意匠性にも優れ、その上メンテナンスが容易であることもステンレスが広く利用される理由となっています。また、100%リサイクル可能な材料としても高く評価されています。

ステンレス鋼は主成分によりクロム系とクロム・ニッケル系と大別されます。
また、主要金属組織の違いに注目する場合はオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系に大きく分かれ、更に特殊なものとしてオーステナイト・フェライト系(二相系とも呼ばれます)、析出硬化系の5つのグループに分類されます。

トルクのかじり現象への影響

高いクランプ荷重(軸力や予張力とも言います)がステンレス鋼の締結ジョイントで必要な場合に、十分な軸力が生成される前にかじることがよくあります。なぜでしょうか?ステンレス鋼ファスナー同士の摩擦係数は他のほとんどの組み合わせよりも高く、締結時の締結トルク(回転力)の多くが摩擦力に奪われます。それで他のファスナーと同様に締め付けると軸力が想定よりも低くなる、あるいは適切なクランプ荷重を得ようと過大なトルクで締め付けてしまいボルトをねじ切ってしまう傾向にあります。

高温のかじり現象への影響

使用条件や使用環境は、ステンレス鋼接合部にさらなる課題を引き起こす場合があります。例えばガスタービンやディーゼルエンジンなどの高温環境は問題を引き起こす一つの要因です。熱膨張は恒久的な歪みを引き起こす可能性があり、熱とガスによって表面に金属酸化物の層(スケール)が生成され、メンテナンス・サービスや修理の際に分解することを困難にする場合があります。

かじりに対処する方法

ステンレス鋼ファスナーのかじり防止で最も手軽な方法は潤滑剤をスプレー(塗布)し「手締め」を徹底することです。

おねじめねじに傷やへこみがないことを確かめ、清掃してごみの混入を防ぎ、潤滑剤を塗布します。そして高速回転して摩擦熱を発生させるインパクトドライバーのような動力工具の使用を控えます。DIYであればこれでほぼねじのかじり問題を回避できます。

工場や現場のように、大量のねじ締結が求められるので動力工具が不可欠な場合においても、清掃の徹底と潤滑剤を追加することはステンレス鋼ファスナーのかじりを最小限に抑える効果的な方法です。そしてこれらが現場でも比較的手軽に行えることも利点です。

固体二硫化モリブデン粒子のような固体潤滑剤を含む工業用潤滑剤を塗布することができます。ただしグラファイトを含む潤滑剤は、高温で炭素とクロムが反応するため推奨できません。

二硫化モリブデン
二硫化モリブデン【MoS₂ 硫化モリブデン(IV)】は光沢のある天然鉱物の輝モリブデン鉱(輝水鉛鉱 モリブデナイト)として産出し、卓越した低摩擦係数を持ちます。化学的に非常に安定した物質で、ほとんどの酸、アルカリ、有機溶剤に犯されません。
優れた潤滑性は結晶構造にあります。六方晶型の層状結晶構造を持ちます。Moの層の両面をSで挟んだ薄片が重なりあう層状構造をしています。Mo/S間の結合は強固で、逆にS/S間の結合は非常に弱くなっています。せん断力を受ける時にS/Sの間がずれる(滑る)ことで、潤滑性を発揮します。

シールテープ(フッ素樹脂「テフロン」【ポリテトラフルオロエチレン PTFE】製で、耐熱性や耐薬品性に優れています)も、パイプやバルブなどのより大きなねじ部品に使用できるかじり防止の有効な手段です。

しかしながら、使用環境や材質に合わせた潤滑剤を選択し、都度適量を確実に塗布・施工するのは手間と時間のかかる作業です。最適な潤滑剤は製品が使用される環境によっても異ります。例えば食品産業内のアプリケーションには厳しい規則があり潤滑剤にも特段の注意が必要です。また、手元の潤滑剤の種類が増えればその管理には手間と費用がかかり、間違った潤滑剤の使用、塗布・施工漏れや不適切な処置、といったヒューマンエラーの懸念が残ります。

潤滑剤のプレコーティング

かじり防止策の最良の選択肢は最適な潤滑剤をあらかじめねじ部にコーティング(プレコート)したファスナーを使用することかもしれません。ファスナーの性能を最大限に引き出し、作業能率を上げ潤滑剤の混乱や塗布忘れなどのヒューマンエラーを回避する、総合的に見て費用対効果の高い対策となりえます。

例えばフッ素系樹脂(無色透明)を表面にコーティングすると、ねじ部の摩擦が小さくなりかじり防止となります。ワックスまたは同様のトップコートをディップスピン法で塗布することもできます。

かじりや、ステンレス鋼のファスナーを適切に締める方法についてさらに詳しくお知りになりたいですか? お気軽に私たち ボサードにお問い合わせください

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