ボルトはリユース、それともリサイクル?前編
先日80代の義父が「飾り棚をメルカリで処分できた!」と報告してきました(取引を実際に行ったのは義妹でしたが…)。新しいオーナーに使ってもらえると大変喜んでいる姿を見て、「リユース」や「リサイクル」が私たちの生活に深く根付いたんだなぁ、と実感しました。
リデュース(Reduce)
製品をつくる時に使う資源の量を少なくすることや廃棄物の発生を少なくすること
リユース(Reuse)
使用済製品やその部品等を繰り返し使用すること
リサイクル(Recycle)
廃棄物等を原材料やエネルギー源として有効利用すること
例えば、2006年以降13年連続リサイクル日本一の鹿児島県曽於郡大崎町は、廃棄物のリサイクル率が80%を大きく超えているそうです。また全国ダンボール工業組合連合会によると、段ボールの回収率は何と約95%!そして段ボール原紙の原材料の実に90%以上が使用済みの段ボール!とのことです。
緑の地球を次世代へ残すため、多くの方が3Rに取り組んでおられますね。
では、ボルトはリユースできますか? “ファスナー(締結資材)”いわゆるボルトの再利用の可否は皆さんから最もよく聞かれる質問のひとつです。
皆さんの生命・安全を守るためねじの専門会社としての結論を最初に申しますと、
“原則としてボルトのリユースは推奨いたしません”
意外な結論でしょうか?
既存のファスナーを再利用することが理にかなっている場面やシナリオもありますが、答えは単純ではありません。ファスナーが果たす重要な役割や皆さんの生活や生命に与える影響を考えると、無条件に再利用はお勧めできません。ファスナーは用途によって様々な外部荷重を受けるため、再利用には慎重さが求められます。再利用にあたり次の点を考慮なさってください。
ジョイントの不具合で、人体に危険を及ぼしませんか?
ジョイントの不具合で、大きなコストが発生することはありませんか?
この二つの重要な質問の答えのいずれか、あるいは両方が「はい」となるのであれば迷わず新品のファスナーへ交換なさってください。
それでも、 “リユースすることは絶対できない?”のでしょうか。もしリユースするならどんなことに注意すべきですか?また、リユースしないのであれば利用済みの“ねじ”はどうなるのでしょうか? 少し専門的な説明もありますが、地球環境と私たちの生命・安全を守るため少しの時間お付き合いください。
強すぎる力で締結したボルトは
リユースできない!
先程の結論と矛盾するようですが条件が整うなら、つまりボルトが降伏点を超えたことがなければ再利用は不可能ではありません。どういうことか少しボルトの働き方からご説明いたします。
ボルトは取り付け部材をボルト頭と反対側にあるナット(や雌ねじ)で挟み込んで圧縮【クランプ】することで締結します。ねじ込まれた際にボルトの軸は引っ張られて伸び、取り付け部材は圧縮されます。
そしてボルト・被締結物においてそれぞれの“弾性力”により元の形に戻ろうとする力が生じ、互いに反発しながら均衡し保持されます。このボルトの軸に蓄えられる力が“軸力”と呼ばれます。軸力が大きくなるほど強い締結と言えます。
引っ張りすぎたゴムが元の形に戻らなくなるように、ボルトも引き延ばされ過ぎると永久的に変形し、引っ張る力を取り除いた後も“伸び”が残ります。荷重を取り除いた時にボルトが元の長さに戻らなくなる点をボルトの“降伏点”と言います。次の図は締め付け軸力とボルトの伸びの関係を簡潔に表したものです。直線部分は力を取り除くと元の長さに戻る領域―弾性域―を、曲線部分は降伏点を超えていて力を取り除いても元に戻らなくなった領域―塑性域―を示しています。
通常、ボルトは降伏点の手前の「弾性域」で使用します。強すぎる力で締め付けると降伏点を超えてしまい、取り外しても元に戻らず元々の性能を発揮することができなくなります。この降伏点を超えたボルトは決してリユースしてはいけません。それで他の外力が加わることを見越し安全率を掛け、弾性域に収まる様に締め付け軸力を定めて “締結トルク”を設定します。
小型軽量であることや特別強い締結力が求められる場合には、ボルトの最大限の軸力を得る「極限締め付け軸力」を利用した締結方法が取られます。この方法では弾性域を超えて塑性域で軸力がピークになるまで締め付けます。ピークを越えてしまうと軸力は急速に弱まりボルトは破断してしまうので、このピークを見極める事が非常に大切です。このために「回転角法」や「トルク勾配法」による締め付けがなされます。必要トルク以上の負荷がかかると締め付け部分が外れるなどの工夫がなされているボルトも存在します。
この「極限締め付け軸力」を利用した締結ではボルトのリユースはできないので、取り外したなら必ず新品の指定されたボルトを指定された方法で締め付けます。ただ、この締結方法は鉄骨のジョイントやエンジンの組み立てなど専門的な分野で利用されており、業界外の方がこの方法で使用されたボルトを取り外すことはまずないとも言えます。
結論です。
不用意にあるいは意図的に降伏点を超える過大なトルクで締結されたボルトのリユース(再利用)は決してできません!
今回はここまでです。「ボルトはリユース、それともリサイクル?後編」ではリユースをお勧めするのを難しくする他の要素、それでも自己責任においてボルトを再利用すると決めた際の注意点をお話しいたします。また実行可能で簡単な「再利用可能なボルトの見分け方」、「ボルトの行く先」についてもお話させていただきます。
ボルト破損の原因と予防についてはこちらのブログも併せてご覧ください。