ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム 第一回 アルミニウムとは

ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム 
第一回 アルミニウムとは
第二回 アルミニウムの精錬とリサイクル(近日公開)
第三回 アルミニウムと接合(近日公開)
第四回 アルミニウムと腐食(近日公開)
第五回 アルミニウム  合金 種類 番号(近日公開)

「アルミニウム」は、非鉄金属の中でも特に身近な私たちの生活を支える金属です(「金属」についてはこちらのブログをご覧ください)。このアルミニウム、人類が発見してからわずか200年あまりだというのは、ちょっと驚きです。今回は全5回のシリーズで「アルミニウム」に注目してみましょう。



アルミニウム 黎明

アルミニウムの存在が初めて予告されたのは1782年にフランスのラボアジエによってです。その後、1807年にミョウバン石から酸化アルミニウムを取り出すことにイギリスのデービーが成功し、1825年にデンマークのエルステットが世界で初めてアルミニウムの単体「金属アルミニウム」を単離することに成功しました。その後1855年にフランスの学者ドビルが、世界初のアルミニウム製造工場をはじめます。

当時のフランスの皇帝ナポレオン三世(在位:1852年 – 1870年)がドビルを支援します。ナポレオン三世はアルミニウムを大変気に入り、アルミニウム製の食器を作らせて重要な賓客をもてなし、 普通の客には金銀製の食器を使わせたようです。アルマイトの弁当箱やアルマイトの食器が学生時代の思い出の昭和世代には考えられない話ですね(筆者の年齢がばれそうです(笑))。1855年のフランスのパリ万国博覧会では「アルミニウム棒」が目玉として、パリの万博会場の特別陳列室に展示されました。1867年のパリ万国博覧会でもアルミニウム製の豪華な「扇」が展示されました。当時、アルミニウムがどれほど貴重なものとして扱われたかを感じさせるエピソードです。

アルミニウムとは

アルミニウム(Al)は、白銀色の金属光沢がある周期表の13番目の面心立方構造の金属元素です。

周期表
面心立方構造

密度は約2.7g/cm³です。これは鉄(約7.9g/cm³)の約1/3で一般的な金属よりも軽く、「軽金属(金属のうち、比重が概ね4.0以下のもの)」に属します。また、良好な熱伝導性・電気伝導性があり、純粋なアルミニウムは金属として比較的軟らかく、非磁性で延性にも富んでいます。そして他の元素を添加しての合金化や熱処理によってより高強度になり、加工性をも向上させることができます。こうした性質が、アルミニウムが航空機や電車の車両、自動車、建設などの多くの産業で有用な素材として利用されている理由です。


アルミニウムが広く用いられているもう一つの理由は資源として豊富にあることです。アルミニウムの地殻中における存在度は非常に高く、アルミニウムは8%余り(調査によりいくらかの幅があり)と推定され、金属元素としては第1位、元素全体でも酸素(約46%)とケイ素(約27%)に次ぐ第3位です。ちなみに金属元素の第2位は鉄で5%余りと推定されています。

アルミニウムは酸素との親和性が高いため、天然には酸化物の形をとり、遊離金属(単体のアルミニウム)としてはほとんど存在しません。これが人類がアルミニウムを発見するのに時間がかかった理由といえるでしょう。

アルミニウムの優れたリサイクル性も注目されています。アルミニウムは日本で年間約400万トンが消費されていますが、そのうちの約40%がリサイクルされたアルミニウム二次合金地金(再生地金)です。スクラップをリサイクルしてアルミニウム二次地金を作るのに必要なエネルギーは、ボーキサイトから全く新しい地金(新地金)を作るときの約3%と言われています。それで再生アルミニウムを積極的に採用する取り組みがなされています。

例えば、アルミ缶リサイクル協会の統計によると、そのリサイクル率は2015年以降90%を超えており、2023年はなんと97.5%でした。このうち水平リサイクル(CAN to CAN)率は73.8%です!

再生されるのを待つアルミ缶

アルミニウムの特性と用途

アルミニウムはその特性を生かした形で様々な分野で用いられています。

Ⅰ 軽い

アルミニウムの特徴の最大のものは「軽さ」でしょう。軽金属と分類されるアルミニウムの密度は室温付近で約2.7g/cm³。鉄の約7.9 /cm³の約1/3、銅の約8.9 /cm³と比べると1/3以下です。そのため、二酸化炭素排出量の抑制のために軽量化が求められる自動車、鉄道車両、航空機、船舶、コンテナなどの輸送分野で好んでアルミニウムが使われています。

1990年から2005年まで販売されたHondaの初代NSXは、世界初のオールアルミボディの車として知られている。鉄でつくると350kgのモノコックボディをオールアルミ化によりわずか210kgにした。

Ⅱ 強い

純アルミニウム(A1085P 焼鈍し)の引張強さは55(N/㎟)とあまり大きくありませんが、これにマグネシウム、マンガン、銅、けい素、亜鉛などを添加して合金としたり、圧延などの加工や熱処理を施したりして強度を高くすることができます。例えば戦時中日本で開発されたAl-Zn-Mg系の超々ジュラルミン(A7075P T6 焼入れ焼き戻し)の引張強さは最大で約570(N/㎟)で、これは機械構造用炭素鋼S45Cの焼ならしで得られる570(N/㎟)以上の引張強さに匹敵します。そして比強度(単位重量当りの強度。 引張強さ(N/㎟)÷密度(g/㎤)として計算でき、高いほど軽くて強度が高い材料と言われる)はとても大きくなります。このため輸送機分野だけでなく建築物などの構造材料として多く使用されています。

アルミニウムの軽さと美しさを生かした“カーテンウォール”

Ⅲ 高い耐食性

「アルミニウムは錆びにくい」というイメージがあります。それはアルミニウムが反応性に富み、空気に触れるとすぐに反応し、表面に自己修復作用のある酸化アルミニウム(Al2O3)の薄い緻密な膜が形成するからです。この酸化皮膜は保護膜として働き、膜以上の深さには腐食が進みにくくなります。

床材として使用されているアルミニウム

合金化によりさらに耐食性を高めることもできます。耐食性を高めたアルミ合金は、建築や海洋開発、船舶や自動車の分野で活躍しています。

海上プラントでもアルミニウムは活躍している

Ⅳ 優れた導電性能

アルミニウムの電気伝導率は銅の約60%ですが、比重が銅の約1/3です。それで同じ重さであれば銅に比べて2倍もの電流を通すことができます。そのため、アルミニウムは軽量な導電体であり、非常に経済的な金属とされています(価格も2024年12月現在アルミニウムは銅の約4分の1)。こうした理由で高電圧の送電線や導体等に広く使用されています。最近では自動車のワイヤーハーネスにも使用されて自動車の一層の軽量化に貢献しています。

アルミニウム芯の電源コード

Ⅴ 非磁性

アルミニウムは非磁性体で、磁場に影響されません。この特長は、アルミニウムの他の特性(軽い、耐食性に優れている、加工性がよい、など)と組合 わされて計測機器や電子医療機器、メカトロニクス機器、さらにはリニアモーターカーや超電導関連機器に生かされています。


Ⅵ 優れた熱伝導性、かつ、低温に強い

アルミニウムの熱伝導率は鉄の約3倍です。そして熱をよく伝えるということは急速に冷えるということです。そのため冷暖房装置、エンジン部品、各種の熱交換器、また、高密度化した機器のシステム放熱フィンやヒートシンクとしても使われています。飲料缶などにもこの特性が生かされています。

ヒートシンク

また、アルミニウムは一般的な金属と異なり、極低温にさらされてももろくならず靭性が大きいのも特徴です。液体窒素(-196℃)や液体酸素(-183℃)を扱うような極低温下でも脆性破壊がなく、それで低温プラントやLNG(-162℃)船のタンク材として積極的に採用されています。さらにロケットや人工衛星といった宇宙開発、バイオテクノロジー 、極低温の超電導関連といった最先端分野で低温に強いことを生かして活躍しています。

LNGタンカー

Ⅶ 熱や光を反射し、見た目が美しい

表面をよく磨いたアルミニウムは銀のように輝きます。赤外線や紫外線などの光線、電磁波、各種熱線をよく反射するからです。純度の高いアルミニウムほど性能が高く、純度99.8%以上のアルミニウムは放射エネルギーの90%以上を反射します。この特性は暖房器の反射板、照明器具、宇宙服などで用いられています。アルミニウムに鏡面加工を施してこの特性をいっそう高めることで、ポリゴンミラー(レーザプリンタでレーザ光を走査させるために用いられる多面体のミラー)をはじめとした光エレクトロニクス製品に利用されています。

アルミニウムは素地の状態でも美しい材料ですが、陽極酸化皮膜処理(アルマイト処理)などの表面処理により見た目をより美しくできます。また、電解着色により多彩な色を付けることも可能で、デザイン性が高いため建築外装や包装材などに使用されます。

アルマイト処理

Ⅷ 加工性に優れる

アルミニウムには融点が低く、溶けた状態でも表面が酸化皮膜で覆われガスを吸収しにくく、溶湯(鋳造のために加熱して液体状に溶かしたもの)が鋳型内に充満する流れ(「湯流れ」と呼びます)がよいという特徴があります。このためアルミニウムは鋳造やダイカストに広く利用されています。薄肉や複雑な形状が求められるピストン、エンジンブロック、ホイールなどの自動車部品、また各種産業機械部品など幅広い分野でアルミニウム鋳造品が存在します。最近は各国の自動車メーカーが、EV製造に「ギガキャスト(企業によって呼び方が異なる “ダイカスト(ダイキャスト)”を超大型化し、これまで数十~数百点の個別部品を組み合わせて作っていた超大型部品を1工程で一括成形する)」を採用することで注目されています。※ダイカストは高圧で型締めした精密鋳型に高速・高圧で溶融したアルミニウムを注入する鋳造方法の一種です。

アルミニュウム鋳造品の一例

また、アルミニウムは力を加えて変形させる塑性加工もしやすく、さまざまな形状に成形することが可能です。複雑な形状の押出形材を容易に製造できます。

アルミニウム押出形材の一例

押出し加工模式図

また、紙のように薄い箔にすることができます。皆さんの家庭にもあるアルミホイルの一般的な厚さは約12μmです。

刃物で削り取る切削加工性にも優れており、金型などの工具類や機械部品に使われています。そして製品素材をさらに成形加工したり、表面などに精密加工を施したりすることも比較的容易です。


Ⅸ 人や環境にやさしい

アルミニウムは土壌や作物、海水や空気中にも含まれている、無害・無臭な地球の地殻表層部に最も豊富にある金属です。食べてしまっても約99%はそのまま排出されます。そして化学作用で金属が溶出したり化合物をつくっても、重金属のように人体を害したり土壌汚染を引き起こしたりしません。このため、食品や医薬品の包装、医療機器や飲料缶、なべやフライパンなどの調理器具といった生活に密着した分野で広く用いられています。

食品用アルミニウム缶

アルミニウムは他の金属と比べると腐食しにくく融点が低いため、使用後のアルミ製品を溶かして、簡単に再生することができます。しかも、再生地金をつくるのに必要なエネルギーは、新地金をつくる際のわずか3%で、新地金とほとんど変わらない品質のものにも再生できます。鋳造用合金へはもちろん、より成分の管理の厳しい展伸用アルミニウム合金へも再生地金として製造する技術が開発され、飲料缶などの分野で実用化されています。


次回はアルミニウムの精錬方法にフォーカスしましょう。


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