ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム 第三回 アルミニウムと接合
ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム
第一回 アルミニウムとは
第二回 アルミニウムの精錬とリサイクル
第三回 アルミニウムと接合
第四回 アルミニウムと腐食(近日公開)
第五回 アルミニウム 合金 種類 番号(近日公開)
複雑な形状の構造物など、いろいろな製品を作る際には、加工した部材同士を組上げる必要があります。それで接合は欠くことのできない重要な技術です。アルミニウムの接合について少し触れたいと思います。
アルミニウムを材料とする場合の注意点
アルミニウムには優れた点が多々ありますが、材料として利用するにあたり注意すべき点もあります。いくつか挙げてみます。
溶接が難しい
アルミニウム表面に形成された酸化被膜の融点は約2000℃と高く、溶接前に酸化皮膜を取り除く必要があります。逆に、アルミニウムは融点が約600℃と低く熱伝導率は高いため、溶接時の熱で母材が抜け落ちる恐れがあります。それでアルミニウムの溶接は鉄鋼の溶接よりも難しくなります。
条件によって腐食する
錆びにくいといわれるアルミニウムですが、塩気が多い環境や異種金属との接触により腐食する場合があります。腐食については第四回で扱います。
線膨張係数が大きい
アルミニウムの線膨張係数は鉄系材料の2倍近くあります。そのため、加熱と冷却が繰り返されるアルミニウム部品には、大きな熱応力による熱疲労が部品を破損させない配慮が設計に求められます。また、ねじ接合においては緩み対策が必要になる場合があります。
疲労限がない
鉄系材料の場合、一般的に金属疲労が起こらない下限の応力である疲労限があります。それで、疲労限以下の変動負荷しか発生しない設計にすれば、理論上になりますが、鉄系材料は永久的に使用できます。しかし、アルミニウムではこの疲労限がないため、想定される製品寿命で亀裂進展が起きても強度上問題がないか確認が必要です。
アルミニウム材を用いた製品を設計する場合にはこうした事柄を念頭に置く必要があります。
アルミニウムの接合方法
アルミニウムの接合方法もほかの金属と同様に、「機械的締結」、「溶接」、「接着」に大別されます。

機械的接合
機械的締結には、「ねじ」「リベット」「ピン」といった、締結用機械要素によって結合する方法と、「かしめ」「力ばめ」のように、被締結部材を力学的な原理によって直接接合する方法とがあります。

鋼製やステンレス製のボルトは径が大きくなればなるほど高重量になりますが、これを比重が1/3のアルミニウム製に変更するだけでも、大きく軽量化が可能です。もちろん、アルミニウムは強度的には劣ってしまうため、そのままのサイズでは強度不足に陥ります。必要な強度を保った形で置き換える必要があります。
また耐腐食性の高さも、素材をアルミニウムに変える理由の一つとなります。酸素と非常に結び付きやすいアルミは表面に非常に緻密で保護力の強い酸化皮膜を形成するため、屋外でも使用することが可能です。
一方、振動が発生したり、温度変化が激しい場合、またはボルトと被締結部品の材質が異なる場合には、対策が必要です。
例えば、輸送時の「振動」によるねじの緩みには、締結に使われている部材の縦弾性係数(縦弾性係数は、鋼材を引っ張った際に発生する「ひずみ」と「引張応力」の比例係数です。一般に、この数値が大きい材料ほど剛性が高く、変形しにくいことを示します)が関係します。例えば、鉄のヤング率は211.4GPa(ギガパスカル)、 アルミニュウム合金は約70GPa、純アルミニウムは66.7 GPaですので、アルミニウムは鉄の約1/3です。そのため同じ振動を与えても、鉄とアルミニウムでは変形量は大きく異なります。鋼製ボルトをアルミニウム部材の結合に使用すると、振動によりボルト座面はアルミニウム部材を陥没させてしまい、ねじのゆるみが生じます。
また、アルミニウムは鉄と比較すると線膨張係数(熱膨張係数とも言われる)が約2倍です。つまり、高温が加わった時に鉄系のボルトよりもアルミニウムボルトは約2倍伸びます。先ほどと同様、アルミニウム部材に鋼製ボルトを使用すると、熱膨張により締結時よりも座面に大きな圧縮荷重がかかり、温度が下がると隙間ができてボルトが緩んでしまいます。それで温度変化が激しい使用環境では、ボルトと被締結部品の材質を同じにすることが重要になります。

アルミニウムの部材にねじ穴を加工する際も注意が必要です。トラブルを避けるためにねじ穴を強化してください。例えば嵌合部を長くするためにねじ穴を深くしたり、強い締め付けトルクが必要ならねじインサートを利用したりします。あるいは上下に強度の高い別素材をかぶせて、その素材にタップ加工を実施することも有効です。
溶接
溶接はアルミニウム接合においても接合技術の中核をなしています。溶接は接合様式から「融接」、「圧接」、「ろう接」に分類されます。
融接
融接は、接合しようとする母材同士、または母材と溶加材(溶接時に供給される金属または合金)をともに溶融して接合します。接合部には液相が形成されます。接合部は非常に強く、母材と同等またはそれ以上の強度になります。しかし母材を融点以上にまで加熱しなければならないので、高温に熱するための熱源が必要です。融点の高い母材に対しては、それだけ高温の加熱源が必要になります。

アルミニウムの溶接で広く使用されるのは電気的現象を利用した「アーク放電」というイナートガスアーク溶接です。イナートガスアーク溶接では、電極の周囲からアルゴンやヘリウムなどの “イナートガス(不活性ガス)”を流し、溶融部を大気から保護します。電極(溶接棒またはワイヤ)にプラス、母材にマイナスの電圧をかけると、空気の絶縁が破壊され母材から電極へのアーク(Arc)が発生します。アークの温度は約5,000℃~20,000℃です。母材と電極は高温になり溶け込んで接合されます。主流なのは自動化に適している次の2方式です。
ティグ溶接(TIG Tungsten Inert Gasの略)は、細いタングステン棒を電極として母材との間にアークを発生させ、そのアークにより母材と溶接棒(溶加材)を溶かしながら継手を形成します。タングステンを電極に用いていますが、電極はほとんど消耗しません。そのため「非消耗電極式(非溶極式)」と分類されます。


ミグ溶接(MIG Metal Inert Gas の略)は「消耗電極式(溶極式)」と呼ばれます。電極にアルミニウムの細いワイヤー(電極ワイヤー)を使用し、母材との間にアークを発生させます。そのアークにより電極ワイヤー(溶加材)と母材を溶かして継手を形成します。電極ワイヤーとして線径0.5~3.2㎜のアルミニウム合金が用いられています。


圧接
圧接は母材を溶融することなく、固相のままで加圧しながら加熱して接合するもので、接合部には原則として液相は形成されません。接合される母材の形状に制限が加えられることが短所です。
圧接法の新しい接合方法と注目されているのが、摩擦攪拌接合(まさつかくはんせつごう Friction Stir Weldingの頭文字から FSWと呼ばれる)です。アーク溶接やガス溶接と比べ「摩擦熱以外の熱源を必要としない」、「溶接棒やフラックスがいらない」、「スパッタやガスがでない」自然環境に優しい接合法といわれています。
この接合方法は高速で回転するツールを被接合材に圧着し、移動させます。回転ツールと被接合材との間で発生する摩擦熱により軟化した材料が、ツールの回転によって後方に押し込まれることで接合されます。溶接よりも接合温度が低いため、異種金属を接合することが可能となり、アルミニウムはもちろん、これまで溶接困難だった素材同士の組み合わせでも接合できるようになります。継手効率が高く、熱による変形が極めて少ないことから、船舶や電車、最近では自動車ボディーへも適用され始めています。
例えば自動車ボディーにアルミニウム合金を使用する際の「テーラードブランク(板厚や材質の異なる複数の素材を接合してからプレス成形する)」と「スポット溶接」において、摩擦攪拌接合が有望とされています。
熱影響部が少なく、継手形状が滑らかでプレス成形に影響の少ないことが、FSWがテーラードブランクの接合には適している理由です。また、自動車ボディーにアルミ合金を使用すると従来の抵抗スポット溶接では大電流を必要とするため、FSW点接合により省エネルギーを図れると利用されるようになってきています。

ろう接(ろう付け・はんだ付け)
ろう接は、接合しようとする母材よりも融点の低い合金(ろう材・はんだ)を、接合部に溶かし込んで接合します。ろう材・はんだを目標とする接合部近くに配置し、ろう材・はんだの融点以上、なおかつ、母材の融点以下の温度に加熱して接合します。合金の融点が約430℃以上の場合をろう付け、430℃未満の場合ははんだ付けとしています。
アルミニウム材をろう付けする際には、その表面 の自然酸化皮膜を除去したり、ろう付け中の酸化皮膜の成長を抑えたりする必要があり、このために塩化物やフッ化物のフラックスを使う方法、フラックスを用いずに真空中で接合する方法などが開発されてきました。
接着法
接着剤を接合面に塗布して接合する方法です。最近では接着性能が向上し進化した接着剤が構造用接着剤と呼ばれ、信頼性のある接合体を接着法にて作ることができるようになっています。
構造用接着剤にも多くの種類があります。その中でよく知られているのはエポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤などがあります。
エポキシ系とアクリル系接着剤は、高張力鋼やアルミニウムの接合に適しています。エポキシ系接着剤は、材料強度が高く、耐久性に優れおり、アクリル系接着剤はエポキシやポリウレタンよりも硬化が速く、樹脂などとも相性が良いといわれています。ウレタン系接着剤は、エネルギー吸収が必要な複合材を接着するのに適しています。
また、接着と抵抗スポット溶接を併用したウェルドボンド法が航空機や自動車産業で実用化されています。
次回はアルミニウムの腐食がテーマです。