ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム 第二回 アルミニウムの精錬とリサイクル
ファスナー材料の非鉄金属 アルミニウム
第一回 アルミニウムとは
第二回 アルミニウムの精錬とリサイクル
第三回 アルミニウムと接合(近日公開)
第四回 アルミニウムと腐食(近日公開)
第五回 アルミニウム 合金 種類 番号(近日公開)
アルミニウムの原材料
アルミニウムの原料は、ボーキサイトと呼ばれる酸化アルミニウム鉱物の混合物です。

アルミナの抽出 バイヤー法
アルミニウム精製の最初の段階はボーキサイトからアルミナ(酸化アルミニウム Al₂O₃)を抽出することです。これは主にバイヤー法が用いられます。
※バイヤー法は、1888年にオーストリアの化学者カール・ヨーゼフ・バイヤーによって開発されました。
バイヤー法では次の操作を行います。
①ボーキサイトの溶解:ボーキサイトを水酸化ナトリウム(NaOH)の熱溶液で約250℃で処理します。ボーキサイト中のアルミナ(Al₂O₃)は水酸化アルミニウム(Al(OH)₃)に変換され、溶液中に溶け出ます。
②不純物の除去:溶液をろ過して、溶けなかったシリカ(二酸化ケイ素)や酸化鉄などの不純物を除去します。
③水酸化アルミニウムの沈殿:溶液を冷却すると、水酸化アルミニウムが白色の綿毛状の固体として沈殿します。
④アルミナの生成:沈殿した水酸化アルミニウムを約1050℃で加熱すると、脱水が起こり、アルミナ(Al₂O₃)が生成されます。
アルミニウムの取り出し ホール・エール法
得られたアルミナからアルミニウムを取り出すのには、溶融塩とともに溶融し電気分解を行うホール・エルー法(電解製錬法)で生産されるのが一般的です。
※ホール・エルー法は、アメリカ人のチャールズ・マーティン・ホールとフランスのポール・エルーが別個に1886年に考案したアルミニウムの製錬法で、発明者の名前をとって名付けられました。
金属を含む鉱物から電気分解で金属を得るには、通常は水に溶かしてイオンにし電気分解します。しかしながらアルミニウムは水素よりイオン化傾向が大きいため、アルミニウムの水溶液を電気分解しても水素が発生してアルミニウムは得られません。
そこで、融解塩電解という方法がとられます。ホール・エルー法では、ナトリウムとアルミニウムとフッ素からできた化合物の氷晶石(ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム、Na₃AlF₆)を使用します。約1020℃で融解した氷晶石は、水を砂糖が溶かすようにアルミナを溶かし込むことができ、この溶液を電気分解してアルミニウムを製造します。こうしてアルミナの融点(約2070℃)よりもはるかに低い温度で精錬できます。


ホール・エルー法では次のような工程で製錬します。
①アルミニウムの酸化物であるアルミナを、1000℃ほどで融解した氷晶石やふっ化アルミニウムに混合する。
②混合物を電解炉に入れ、電気分解によって還元する。
③溶けたアルミニウムを電解炉の底に集め、保持炉に移して必要な成分や純度を調整する。
純度を高める
ホール・エルー法での純度は約98 %であるため、より高純度なアルミニウムを得るために三層電解法や分別結晶法(偏析法)を使います。
三層電解法
三層電解法は電気分解を利用するホール・エルー法に似ていす。原料となるアルミニウムを、Cuを含む合金層に挿入し電気を流します。するとアルミニウムのみが陰極側に集まります。純度が99.98%~99.998%のアルミニウムをこの方法によって生成できます。

分別結晶法
分別結晶法は電力を使わず、熱力学的な方法で高い純度のアルミニウムへ精錬します。分別結晶法では、溶解した一次電解アルミニウムを局部的に冷却すると、純度の高いアルミニウムが初晶として晶出するという原理を用います。この方法によって純度99.98~99.996%のアルミニウムを得られます。
地金
得られたアルミ地金は、純度や成分によって普通純度地金(純度99.0〜99.9%)、高純度地金(純度99.95%以上)、合金地金(あらかじめ何種類かの金属元素を添加した合金)に分類されます。
また、形状や用途からインゴット(加工メーカーが目的に応じて溶解して使える形状寸法にした塊)、スラブ(圧延用の鋳塊で大型の直方体の形状をしている)、ビレット(押出加工用に切断した塊でおもに円柱形に鋳造される)などに加工します。


こうしてボーキサイト約4トンからアルミナが約2トン得られ、そしてこの2トンのアルミナから約1トンのアルミニウム新地金を得ることができます。
ちなみに、アルミニウム新地金1㎏を生産するために消費される電力は約15.7kWhと言われます。大量の電力が消費されることから、アルミニウムは「電気の缶詰」と呼ばれることがあります。
ホール・エルー法は、アルミニウム製錬が工業的に発展するきっかけとなりました。同時期の1870年頃にジーメンス及びグラム(ドイツ)によって実用発電機が完成されて大量の電気が供給可能になったこと、1888年にボーキサイトからアルミナを得るバイヤー法がオーストリアのK.J.バイヤーによって考案されたことは興味深いですね。
アルミニウムとリサイクル
第一回でも触れましたが、アルミニウムをリサイクルする時に必要なエネルギーは、アルミ新地金を製造する時に比べてわずか3%で済みます。つまり、少ないエネルギーで再生できる循環型金属という訳です。ここでもう少しアルミニウムのリサイクルについて触れたいと思います。
実のところ、現在日本国内ではアルミニウムの製錬事業は行われていません。1973年の第1次オイルショック、その後の第2次オイルショックを経てそのほとんどが撤退しました。
アメリカやカナダに比べると、日本の電気代は5~10倍ほどと言われ、国内でアルミニウム地金を生産することはコスト高になります。富士川沿いに持つ水力発電所から自前の電力を調達して国内で操業を唯一続けていた日本軽金属も、2014年3月末に静岡市蒲原製造所でのアルミ地金の生産を停止しました。
このように、日本のアルミニウムは、原料である新地金を海外に完全に依存した状態にあります。そのため、世界のあるいは産出国の政治的・経済的動向などの不安要因を構造的に抱えています。さらには脱炭素化が求められているため、日本国内でリサイクルしてアルミニウム再生地金を生産することは大変重要となっています。
日本でのアルミニウムリサイクルは、鋳造材へのリサイクルは進んでいますが、展伸材への水平リサイクルについては、アルミ缶やサッシなど一部にとどまっています。

なぜ展伸材への水平リサイクルは広がらないのでしょうか?
伸展材は合金元素の管理が厳密であるのが主な理由になります。伸展材合金を構成する添加元素の種類とその添加量、および管理不純物元素の種類とその許容限界値の管理が厳密なため、展伸材用合金のリサイクルは混入する異種金属に対する許容度が低くなります。展伸材への再生には高精度な選別が必要なためコストがかかり、飲料缶の水平リサイクルのような一部の例外を除いて事業として成立させることが難しい分野なのです。
こうした事情により、アルミニウムのリサイクルは、不純物がより許容される鋳物用合金へのダウングレードリサイクルが多くなります。
ただし、必ずより性能の劣った合金になるとは言えません。例えばダイカスト用合金地金のAD12.1は鋳造性に優れた高力合金で用途が広く、AD12.1インゴットを溶解して鋳造したADC12が日本のダイカスト製品の90%以上に使われています。このAD12.1場合、他のアルミニウム合金では不純物とされる成分の銅(1.5から3.5%含有)や鉄(0.6から1.0%含有)が必要な成分となっています。例えばFeは入れすぎるとダイカストの靭性を悪化させ、入れないと金型とダイカストが焼付き易くなります。
現在、リサイクルアルミニウムの最終用途の大部分が自動車用エンジンブロック鋳造品です。

EVシフトが加速すると、エンジンの需要が激減し、将来的に使えないアルミニウム(デッドメタル)が大量発生する事態が懸念されてもいます。
そのため、消費電力を抑えた経済的な水平リサイクル技術やアップグレードリサイクル技術が必要とさています。次の分野の技術革新が求められています。
①スクラップを合金組成毎に分ける固体段階での選別技術
②選別したスクラップから有害元素を取り除く溶融状態での不純物除去技術
③有害元素を無害化する加工・熱処理・成形といった不純物の存在を前提とした加工技術
次回はアルミニウムと接合について考察します。