ワッシャーのゆるみ止め効果について
ゆるみ止め要素として用いられる”ワッシャー”。どんな原理でゆるみ止めとして機能するのか、3タイプのワッシャーを比較することで確認してみましょう。
関心は高いが誤解されがちなワッシャー
多くの方がワッシャーに関心を持っています。ある締結部品ECサイトの最新(2022年11月)の月間ページアクセスランキング、第2位は「スプリングワッシャー」についての、第4位は「ナットとワッシャー」についてのページでした。この傾向はしばらく前から続いています。
恐らくワッシャーが私たちのよく目にする締結部品であり、また、どのように使用するべきかについて何となく“もやっ”としているからであろうと推察します。
「ワッシャーはゆるみ止めに使うんだよ!」
と、この投稿を目にして突っ込んでくださっている方も多いと思います。
確かにそうなのですが、間違ったワッシャーの選択と使用は世界中で想像以上に頻繁に起こっているのが現状です。
間違ったワッシャーの使用はどんな結果をもたらすのでしょうか?
ねじ接合部の強度が低下し接合部のゆるみのリスクは高まり、このことは重大な事故につながりかねません。私たちはこの事態を見過ごすわけにはいきません。
では、どのワッシャーを使えばいいのでしょうか?
ゆるみ止めとして利用される代表的な鋼製ワッシャーの丸ワッシャー(平ワッシャー)・スプリングワッシャーそしてリブドロックワッシャー(ドイツ生まれの標準安全座金Schnorr【シュノール】ワッシャー ボサードブランド)を比較すると、それぞれのタイプの長所と短所をより良く理解し正しく使用することができます。
その前にねじ締結がゆるんでしまう理由を簡単に振り返りましょう。
ねじのゆるみ: 回転ゆるみ・非回転ゆるみ
ボルトは取り付け部材をボルト頭と反対側にあるナット(や雌ねじ)で挟み込んで圧縮【クランプ】することで締結します。ねじ込まれた際にボルトの軸は引っ張られて伸び、取り付け部材は圧縮されます。そしてボルト・被締結物においてそれぞれの“弾性力”により元の形に戻ろうとする力が生じ、互いに反発しながら均衡し保持されます。このボルトの軸に蓄えられる力が “軸力” と呼ばれます。
ボルト・ナットがゆるみ方向に回転することでクランプ力が小さくなったり、締結されているボルトやナットと被締結材とが何かの拍子に離れて間隙が生じたりすると、軸力が抜けて締結力が無くなりねじはゆるんでしまいます。
ねじのゆるみは軸力が抜けてしまう原因によって “回転ゆるみ” “非回転ゆるみ” に区別します。ねじ・ボルトやナットが振動や衝撃などによりゆるみ方向に回転してゆるむのが “回転ゆるみ” です。そして “非回転ゆるみ” は、時間経過と共に馴染んだりヘタったりして被締結材が陥没する(初期ゆるみ)、あるいは強く押しつぶされて陥没してしまう(陥没ゆるみ)、また何らかの理由でボルトが変形・降伏する等の理由で軸力が抜けることでゆるむ現象です。
では先ほど挙げた代表的な2つのワッシャーとリブドロックワッシャーのゆるみ止めとしての機能を考察しましょう。
平ワッシャー(丸ワッシャー)
まず、ワッシャーと言って思いつくのは平ワッシャー(丸ワッシャー)ですね。
平ワッシャーを使用するとボルトやナットだけの場合と比較して被締結材との着座面の面積が大きくなります。この大きな着座面積がボルトやナットと接地面における被締結材との圧力を下げ、座面 の沈み込みリスクを低減します。
さらに平ワッシャーをボルト・ナットと被締結物との間に挟み込むことでボルト、ナットが回転する着座面の摩擦係数が一定に なります。締結力をコントロールして狙い通りの結合を実現し、また面圧を下げて非回転ゆるみを防ぎます。
但し、失った軸力を補うことや回復させる事は出来ないので増し締めや定期的なゆるみのチェック等のメンテナンスが必要です。そして回転ゆるみに対しては無力です。
適切なワッシャーの硬さを決定するには、ファスナーの強度を考慮する必要があります。ワッシャーの硬さを間違えると、陥没の危険性が高まります。陥没すれば非回転ゆるみが発生します。
「硬さ」についてはこちらをご覧ください。
スプリングワッシャー(ばね座金)
次にスプリングワッシャーについての考察です。
スプリングワッシャーについてはその形状から「接合面に食い込みねじやナットの回転を妨げてゆるみのリスクを減らす」と言われますが、これは誤解です。スプリングワッシャーの本当の目的は、クランプ荷重の損失を減らして非回転ゆるみや回転ゆるみのリスクを低減することです。
しかしゆるみ防止効果を発揮できる場面は限られていて、例えば強度8.8以上のファスナーでの使用では(たとえ3号の【重荷重用】でも)その効果は非常に低いか、ほとんどありません。
このようにスプリングワッシャーは軸力の小さなファスナーでの締結箇所で効果を発揮します。
そしてこのような条件では一般的に締結材がデリケートな場合が多いので部材を傷つけることを防ぐためにスプリングワッシャーが平ワッシャーと併用されます。そしてスプリングワッシャーのゆるみ止め効果は限定的なのでゆるみ止め対策としてスプリングワッシャーを単独で使用することはお勧めできません。
リブドロックワッシャー
リブドロックワッシャーは先に考慮した2種類のワッシャーと比較して別格のゆるみ止め効果を発揮します。
表面にリブ を設けたこのリブドロックワッシャーは、ワッシャー自体が非常に硬く(ばね鋼製の場合、硬さ380-510HV)、クランプされた部品とボルトやナットの着座面にがっちり喰い付き固定されるように設計されています。こうして摩擦を大きくすることで、ネジやナットの回転ゆるみを防止します。
また、このワッシャーは台形断面をした皿ばね状で締結時の変形による強い弾性力によって、着座面がある程度沈み込んでもボルトに軸力を保持させて非回転ゆるみに対しても効果を発揮します。それで振動の激しいところでもゆるみ止めとして機能します。このようにリブドロックワッシャーは回転ゆるみ・非回転ゆるみいずれにも効果のあるゆるみ止めワッシャーです。
平ワッシャーと併用してしまうとリブによる回転ゆるみの防止効果はキャンセルされてしまうので、リブドロックワッシャーは単独での使用をお勧めします。
まとめ
結論です。平ワッシャー・スプリングワッシャーそしてリブドロックワッシャーをゆるみ止めとして比較すると、
平ワッシャー:着座面積を増加させ面圧を下げることで部材の着座面の沈下を防ぎ、非回転ゆるみを防止する。そのため木や樹脂、アルミニウムなど被締結材が柔かい場合にはゆるみ防止として特に有効に働く。しかし振動環境等で生じやすい回転ゆるみに対しては効果なし。
スプリングワッシャー:着座面の沈み込みによるクランプ荷重の損失を減らすことで回転ゆるみや非回転ゆるみを防ぐが、弱い軸力でのねじ締結においてのみ有効。それゆえに使用箇所が限定される。
リブドロックワッシャー:回転ゆるみ、非回転ゆるみいずれに対しても有効に働き広く用いる事ができる、優れたゆるみ止め機能を持ったワッシャー。
このようにそれぞれのワッシャーの持つ長所短所を良く知り正しく使用するなら、私たちの暮らしの安心・安全を守るねじ締結を実現できます。
ねじのゆるみの原因は複雑です。そのため、ねじのゆるみを防止する対策品も多岐にわたります。
ねじでお困りですか?私達にご相談ください。一緒に最適な解決方法を探しましょう!