ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム 第五回 アルミニウム 合金 種類 番号
ファスナー材料 非鉄金属 アルミニウム
第一回 アルミニウムとは
第二回 アルミニウムの精錬とリサイクル
第三回 アルミニウムと接合
第四回 アルミニウムと腐食
第五回 アルミニウム 合金 種類 番号
純アルミニウムとアルミニウム合金
アルミニウムの純度が99%以上のものは純アルミニウムと呼ばれ、種々の元素を添加して性質を改善したものはアルミニウム合金と呼ばれています。
アルミニウム合金は ①展伸用合金 ②鋳物用合金に大別されます。アルミニウム合金のおもな性質は、添加元素の種類と添加量によって決まります。
展伸用アルミニウム合金は、その種類を22か国・24団体の「国際合金記号化制度協定」による個別番号で区分しています。JIS規格の圧延用アルミニウムの区分もこの協定によります。
一方、鋳物用アルミニウム合金には今のところ国際合金登録制度がないため、その合金記号は各国それぞれです。
展伸用アルミニウム合金の種類と“番号”

展伸用アルミニウム合金は、JIS規格では4桁の数字とアルファベットを組み合わせて表します。この四桁の番号は、合金を構成する添加元素の種類とその添加量、および管理不純物元素の種類とその許容限界値の違いによって細かく区分されています。
例えば超々ジュラルミンの呼称で知られる展伸用アルミニウム合金は、JIS規格では ‘A7075’と表します。ヨーロッパ規格では‘EN AW-7075’です。4桁の数字 (7075)が同じであれば、合金の化学成分はまったく同じです。現在では、四百数十種類ものアルミニウムおよびアルミニウム合金が登録、管理されています。
記号の読み方
最初のAはJIS独自の接頭語で、アルミニウムおよびアルミニウム合金を表します。続く4桁の数字が、国際登録合金番号です。【A ●●●● ××】
【 第1位 A ●□□□ 】
純アルミニウムについては数字‘1’アルミニウム合金については主要添加元素によって数字‘2’〜‘8’に区分します。
【 第2位 A □●□□ 】
数字‘0’〜‘9’を用い、‘0’は基本合金を表し、1’〜‘9’はその改良型合金を登録の順に付けます(たとえば、3003合金の改良型は3103 、3203 合金と表します)。なお、日本独自の合金は‘N’を付けて表します。6N01合金は国際合金登録され6005Cという名前が付きました。
【 第3位と第4位 A □□●● 】
純アルミニウムについては、アルミニウムの純度小数点以下2桁を示します。たとえば1050は、純度99.50%Alを表します。
合金については“識別番号”であり、数字には特に意味はないようです 。
では、各合金の系統をご紹介します。
1000系 純アルミニウム
純度99%以上の工業用純アルミニウムです。優れた電気伝導性と耐食性を持ちます。1100、1200が代表的で、いずれも微量のFeとSiを特性に応じて調整した純アルミニウム系の材料です。1100はアルマイトとして知られている陽極酸化処理後の光沢をよくするため微量のCuが添加されています。
2000系 Al-Cu系合金
高い強度と加工性を備えています。また、熱処理によって高強度が得られる熱処理型合金です。ジュラルミン(2017)、超ジュラルミン(2024)が代表的なものです。鋼材に匹敵する強度があり、構造用材や鍛造材として使用されています。比較的多くのCuを添加しているため耐食性には劣り、厳しい腐食環境では十分な防食処理を必要とします。
3000系 Al-Mn系合金
Mnを添加して純アルミニウムの加工性、耐食性を低下させずに強度を少し増加させたものです。非熱処理型合金で、耐食性と加工性に優れています。
4000系 Al-Si系合金
比較的多くのSiを添加した合金で、溶融温度が低いため主としてろう材、溶接ワイヤーとして使用されています。また、熱膨張係数が低く耐熱性、耐摩耗性に優れているため、ブレーキのマスターシリンダーやバルブ、ブッシング、軸受、油圧機器にも適用されます。ピストン合金素材として4032アルミニウム合金の押出素材が開発されています。
5000系 Al-Mg系合金
非熱処理型合金で、耐食性と溶接性に優れています。比較的種類が多く、広い用途があります。
Mg添加量の少ないものは、装飾用材、建材、器物用材に使用されます。添加量が中程度のものは自動車ホイール等に、添加量が約4.5〜5%合金はこの系で最も高い強度を持ちます。例えば5083合金は溶接構造材料として船舶、LNGタンク、大型構造物などに使われます。
6000系 Al-Mg-Si系合金
熱処理型合金で、耐食性と加工性に優れています。押出加工性に優れていて複雑な断面形状の形材が得られるので、6063はアルミサッシとして、6005C(6N01)合金は鉄道車両、自動車部品に使用されています。
7000系 Al-Zn-Mg系合金
アルミニウム合金として最も高い強度をもつCuを添加した合金と、Cuを含まない溶接構造用合金に分類できます。
Cu系合金の代表的な7075合金(超々ジュラルミンの呼称で知られる)は日本で開発され、航空機、スポーツ用品類に使用されています。
Cuを含まないAl-Zn-Mg系合金の7204(7N01)、7003合金(7003合金も日本で開発されました)は比較的高い強度があり、溶接部の強度は常温に放置するだけで母材に近い強度まで回復するため、溶接構造用材料として鉄道車両などに使用されています。
8000系アルミニウム合金 その他の合金
これまでの合金系に属さないその他の材料が添加された合金です。Feを添加することによって強度と圧延加工性を付与したアルミ箔用合金8021、8079が、日本では電気通信用や包装用として使用されています。
鋳物用アルミニウム合金の種類と “番号”

鋳物用アルミニウム合金は①砂型・金型鋳物用合金と②ダイカスト用合金の二つの系統に大別されています。砂型・金型鋳物用合金には熱処理合金・非熱処理合金の区分がありますが、ダイカスト用合金は普通熱処理をしないので熱処理の有無による合金の区分をしないのが一般的です。
(1)砂型・金型鋳物用合金
鋳型に溶湯(溶解したアルミニウム)を鋳込む際に特別な圧力を加えないので重力鋳造法とも呼びます。鋳造方法や製品により、鋳造性、強度、耐摩耗性、高温強さなどの求められる特性に応じた合金が使用されます。砂型・金型鋳物用合金はAC●■(●は数字、■はアルファベット)と表記されます。代表的なものを挙げておきます。
AC1B (Al-Cu系)
鋳物用アルミニウム合金の中で靱性に優れた合金です。しかし、耐食性は劣るので腐食環境での使用は適していません。切削性がよく、電気伝導性に優れるため架線用導電部品、自転車用部品、航空機用油圧部品等に使用されています。
AC2B(Al-Cu-Si系)
鋳造性に優れた一般的なアルミニウム鋳造合金で、エンジンのシリンダヘッドやバルブボディなどに使用されています。
AC4C(Al-Si-Mg系)
鋳造性に加えて耐食性と機械的性質にも優れた合金で、エンジン部品、車両部品、船舶用部品などに用いられます。
(2)ダイカスト用合金
加圧力を作用させて金型に高速で溶湯(溶解したアルミニウム)を注入させるのがダイカストです。
ダイカストは、速い冷却速度で成形(急冷凝固)されるため微細な組織が得られ、高い機械的性質を持ちます。
複雑な形状の部品を一工程で最終製品に近い形状につくるため、溶湯には高い流動性が求められます。また、金型への焼付きを予防する必要があります。そのため、砂型・金型用合金では不純物とされる少量のFeを故意に添加しています。
また、急冷凝固は機械的性質に及ぼす不純物の影響を受け難くするため、再生地金が多く使用されます。
ダイカスト用のアルミニウム合金はADC●、ADC●●(●は数字)と表記されます。代表的なダイカスト用のアルミニウム合金を紹介します。
ADC1(Al-Si系合金)
この合金は、砂型・金型鋳物用合金のAC3Aと同じような組成の合金で、鋳造性と耐食性に優れます。高い強度を要求しない薄肉・複雑形状の鋳物に適します。
ADC10、ADC12(Al-Si-Cu系合金)
砂型・金型鋳物用合金のAC4Bに相当する合金で、多量のSi添加で鋳造性を改善しています。また、Cuの添加で強度を高めています。ダイカスト用合金の中で鋳造性に優れた高力合金としその用途は広く、使用量も多くなっています。とくに自動車エンジン部品や電気機器部品における利用率が高いです。
ADC14(Al-Si-Cu-Mg系合金)
強度、耐摩耗性に優れており、熱膨張係数が小さいのが特長です。当初はエンジンブロックの軽量化を目的として開発され、自動変速機用オイルポンプボディーやクラッチハウジングなどに使用されています。
調質記号
アルミニウム合金の番号には、数字に続いて1〜3個のアルファベットと数字の記号が付されますが【A ●●●● ×× AC●■×× ADC●××】、次の意味を表します。
F – 製造のまま
O – 焼きなましたもの
H – 加工硬化したもの
H1 – 加工硬化だけのもの
H2 – 加工硬化後適度に軟化熱処理したもの
H3 – 加工硬化後安定化処理したもの
H4 – 加工硬化後塗装したもの
W – 溶体化処理(適温に加熱・保持し、材料の合金成分を固体の中に溶かし込み【固溶させる】、析出物を出さないように急冷)したもの
溶体化処理のみで、調質的に不安定な状態のもの
T – 熱処理によってF・O・H以外の安定な質別にしたもの
T1 – 高温加工から冷却後、自然時効(室温で放置)させたもの
T2 – 高温加工から冷却後、冷間加工を行い、さらに自然時効させたもの
T3 – 溶体化処理後、冷間加工を行い、さらに自然時効させたもの
T4 – 溶体化処理後、自然時効させたもの
T5 – 高温加工から冷却後、人工時効(過飽和固溶体から析出を起こさせる熱処理 意図的に熱を加えるため自然時効に対して人工時効)したもの(押出→焼戻ししたもの)
T6 – 溶体化処理後、人工時効したもの(焼入れ→焼戻ししたもの)
T7 – 溶体化処理後、安定化処理したもの
T8 – 溶体化処理後、冷間加工し、さらに人工時効したもの(T3を人工時効したもの)
T9 – 溶体化処理後、人工時効し、さらに冷間加工したもの(T6を冷間加工したもの)
T10 – 高温加工から冷却後、冷間加工を行い、さらに人工時効したもの
ここまで5回にわたって、私たちの生活に深くかかわっている金属「アルミニウム」について見てきました。今後もファスナーにまつわるお話を紹介させていただきます。ご覧いただけたこと、嬉しく思います。ありがとうございました。