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プラスチックファスナーとその用途

「プラスチックファスナー」というと、どんなものを想像されますか?

恐らくこんな製品ですよね?

ご想像通りでしたか?

プラスチックでできた「チャック(ジッパー)」を真っ先に思い浮かべるのが一般的だと思います。

でも、ねじ屋の頭にはこんな製品群が浮かんでいます(笑)。

今回はこちらの「プラスチックファスナー」、プラスチックで出来た締結部品についてのお話しをしたいと思います。

プラスチックファスナーの利点

プラスチックは「軽量・高耐久・高耐食で断熱・絶縁性に優れ しかも安価」というその優れた性質により幅広く活用され、ファスナーの世界でも日ごとにその存在感は高まっています。適切に設計・選択・使用されるプラスチックファスナーは多くの用途で非常に実用的で有益な役割を果たします。実際プラスチックファスナーは金属ファスナーと同じねじ等級と適合性の基準 に準じるように製造されており、様々なアプリケーションで効果的に機能しています。

環境(雰囲気)、熱、化学および電気的特性がアプリケーションの重要な決定要因である場合に、プラスチックファスナーは金属ファスナーの代替として頻繁に利用されます。適切な素材で製造されるプラスチックファスナーは、強度、熱や低温への耐性、耐腐食性、重量制限、靭性などの特定の設計要件を金属ファスナーと同等に、場合によってはそれ以上に満たす能力を有しています。

ポリカーボネート(PC)製
六角穴付ボルト

金属ファスナーは長年にわたり高度に発達して多様化してきました。同様にプラスチックファスナーも標準的な形状のものや特殊な機能を持つものとして発展してきています。ですから、金属ファスナーと同様にプラスチックファスナーも使用する前にその機能や物理特性についての十分な検討・理解が必要です。

ナイロン(PA)製リベット

例えば、プラスチックファスナーの中にはガラスや金属フィラーを添加された、素材すべてがプラスチックでは無いものもあります。この添加される材料によりファスナーは強度、耐熱性、剛性を向上させることができます。

ガラス繊維でポリアミド(PA)を強化した
レニー(Reny)製のつまみねじ

プラスチックファスナーには柔らかい素材に使用できるという金属にはない利点があります。また、エンジニアや設計者はプラスチックファスナーの優れた特質として耐薬品性、耐酸性、非導電性、耐水性に注目しています。
一例を挙げると、海水中など金属ファスナーが弱点とする腐食・錆が生じる水中使用おいてプラスチックファスナーは強みを発揮します。ステンレスですら錆びたり腐食したりすることがある過酷な環境下でもプラスチックなら錆びません。その上、プラスチックは不磁性・不導体であるため、敏感な電子・電気機器への応用にも適しています。

ポリカーボネート(PC)製
六角ボルト

プラスチックファスナーの選択に際して

プラスチックファスナーの選択において重要なのは用途のニーズを見極める、つまり求められる特性の優先順位を見極めることです。締結部品には複数の機能や特性が求められます。その中で最も重視する機能は何ですか?設置条件や雰囲気などによりどうしても外せない性質は何でしょうか?強度、耐衝撃性、耐熱性、難燃性、非腐食性あるいは耐候性、それとも経済性でしょうか?アプリケーションのファスナーへのニーズを正しく見極めて選択し適正に使用すれば、プラスチックファスナーは多くの場面で金属ファスナーに匹敵する、あるいはそれ以上の性能を発揮します。

次のパートはねじ屋として押さえておくとよい簡単なプラスチックの解説です。

プラスチックとは ーねじ屋による簡単解説ー

プラスチックは熱や圧力を加えることにより成形加工のできる有機高分子物質(高分子 数千個以上の“原子”がつながって分子量が10,000以上になったもの)のことです。加温した状態で流動性を示し、所定の形へと成形できます。「プラスチック」には天然樹脂と石油から生まれた合成樹脂がありますが、一般的には合成樹脂のことを指します。同じ合成高分子物質である合成繊維と合成ゴムとはその物性によって区別し、プラスチックは合成繊維と合成ゴムの中間に位置します。このプラスチック、その分子構造による性質の違いから ①熱可塑性樹脂と ②熱硬化性樹脂の2種類に分類できます。

熱可塑性樹脂 (Thermoplastic resin)

熱可塑性樹脂は線状構造の分子、つまり紐のような一次元の分子構造を持ち、熱を加えると絡み合った分子同士のほつれが解けて流動性を持ちます。成型後でも再び加熱すればチョコレートのように流動性を取り戻します。

熱可塑性樹脂は更に3種類にカテゴライズされます。生産されるプラスチックの80%を占め幅広く利用されている汎用プラスチック(耐熱性100℃未満)、強度や耐久性を求められる用途に使用する汎用エンジニアリングプラスチック(エンプラ 耐熱性 概ね100度以上)、エンプラよりもさらに高い熱変形温度と耐久性を持つスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ 耐熱性 概ね150℃以上)です。但しここで挙げた数字はあくまで目安で、実際のところエンプラやスーパーエンプラの明確な定義は存在しません。ファスナーにはこれらのプラスチックが目的の性能に応じて活用されています。

主な汎用樹脂
ポリプロピレン(PP)
ポリエチレン(PE)
ABS樹脂(ABS)
ポリ塩化ビニル(PVC)
メタクリル樹脂(アクリル樹脂)(PMMA)

左PVC製平ワッシャー   右ABS樹脂製ノブナット

主な汎用エンジニアリング樹脂
[5大汎用エンプラ]
ポリアミド=ナイロン(PA)
ポリアセタール(POM)
ポリカーボネート(PC)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)
変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)

PA製のファスナー
左 PC製ローレットねじ   右 POM製袋ナット

主なスーパーエンジニアリング樹脂
ポリスルフォン(PSU)
ポリエーテルサルフォン(PES)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)
ポリアリレート(PAR)
ポリイミド(PI)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)

PEEK製の止ねじ

「結晶性樹脂」と「非晶性樹脂」

熱可塑性樹脂は「結晶性樹脂」と「非晶性樹脂」にも分類されます。結晶性樹脂は分子鎖が規則正しく配列した結晶を持ち、機械的強度が高く、耐薬品性にも優れています。一方の非晶性樹脂は分子鎖がランダムで結晶を持たず、成形収縮率が小さく、透明になりやすいという特長を持っています。結晶性樹脂と言われるものでも全てが結晶化することは難しく、結晶領域と非晶領域が混在しています。

代表的な結晶性プラスチック
ポリアミド=ナイロン(PA)
ポリアセタール(POM)
ポリエーテルエーテルケトン=ピーク(PEEK)

代表的な非晶性プラスチック
ポリカーボネート(PC)
ポリ塩化ビニル(PVC)
変性ポリフェニレンエーテル

熱硬化性樹脂(Thermosetting resin)

熱硬化樹脂は三次元の網目構造を持ち、一度熱を加えると架橋反応を起こし硬化します。これは不可逆反応で冷却後に再加熱しても軟化することありません。こうした物性はクッキーや卵に例えられます。耐熱性、耐腐食性、含浸性などに優れ、熱可塑性樹脂ほどでは無いものの幅広い用途に使用されています。

主な熱硬化性樹脂
フェノール樹脂(PF) 【世界で初めて植物以外の原料から人工的に作り出されたプラスチック素材】
エポキシ樹脂(EP)
ポリウレタン樹脂(PUR)
メラミン樹脂(MF)
不飽和ポリエステル樹脂(UP)

PF製ノブナット

ここまで、ねじ屋として押さえておくとよい簡単なプラスチックの解説でした。

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