ねじの話 「タッピンねじ」1 タッピンねじとは

締結ソリューションを探す際に、一般的に選ばれるファスナーにセルフタッピングねじ(Self-tapping screw)があります。セルフタッピングねじは価格を見ると少々高いと感じるかもしれませんが、時間と人件費を削減し、穴あけと固定の手順の組み合わせの自由度を上げるのに役立ち、トータルコストでは非常に有利に働きます。ではセルフタッピングねじとは何ですか?

ねじの話 「タッピンねじ」
1  タッピンねじとは
2  タッピンねじは なぜセルフタッピングができるの?
3  タッピンねじの形状とその用途(付属書品)



セルフタッピングねじ・タッピンねじとは?

セルフタッピングねじは、木材、プラスチック、金属にねじ込み、ねじ自体がタップ加工(ねじ立て)するよう設計されたねじです。セルフタッピングねじを使用することで、正確にフィットしためねじを作ることができます。

「タッピンねじ」という名称はJIS B 0101の中で「ねじ自身でねじ立てができるねじの総称」として定義されています。いわゆる「タッピンねじ」と呼ばれるねじは下穴を必要としますが、下穴を必要としない「ドリリングタッピンねじ(軽天ねじ)」や「タッピンねじのねじ山をもつドリルねじ(ドリルねじ)」も、タッピンねじと同じ60度のねじ山角度のねじ山を持つセルフタッピングねじの一部です。

※ドリルねじについて詳しくはこちらのブログをご覧ください。


「木ねじ」と先端がとがった粗いねじ山を持つC形(JIS付属書品では1種)タッピンねじとは、形状が似ているためによく混同されます。

左 タッピンC形   右 木ねじ

木ねじもC形(1種)タッピンねじも、先端部が木材に食い込みやすいように鋭くなっています。しかし、木ねじはタッピンねじのように全ねじ形状ではなく、半ねじ形状です。木ねじのねじ山は先端から2/3ほどです。また、ピッチもC形タッピンよりもさらに粗くなります。そしてC形タッピンねじは木材に使用することができますが、「木ねじ」はC形タッピンねじが使用できる薄鋼板やハードボード等への使用に適しません。


「タッピンねじ」の概要

タッピンねじはJIS B 1007「タッピンねじのねじ部」にねじ山形状が定められています。隅にわずかな丸みを帯びたねじ山角度60°の三角ねじです。

タッピンねじのねじ山

そして3種類のねじ先端形が規定されています。先端の尖った C形、平らなF形、鈍く丸みを帯びたR形です。これら3種はISOのタッピンねじ(tapping screws)に準じる本体規格です。

タッピンねじの形状 
左側:本体規格品 右側:附属書品

実は、日本国内では圧倒的に、付属書品(日本独自規格品)が多く流通しています。附属書品のねじ部の形状は次の4種類が定められています。

尖った先端を持ち最もピッチが粗いのが1種です。2種は先端部がわずかに先細り(テーパー)した平先で、ピッチは1種と3種の中間の粗さになります。3種は2種と同様にわずかにテーパーした平先を持ち、ねじピッチはMねじ並目と同じで最も細かくなります。4種は1種と同じとがった先端部を持ち、ピッチは2種と同じでやや粗目のピッチです。このうち、4種は市場にほとんど流通していません。これらのねじ部に「十字穴付きトラス」や「すり割りつきなべ」といった様々な形状の頭部が組み合わせられます。

左から 1種  2種  3種(溝付)

タッピンねじは、締結する際にあらかじめ下穴を開けておくことが必要です。下穴をあけるには、タッピンねじ自身よりも小さい径のドリルを使います。一般にねじの呼び径の7割の径の下穴が適切とされますが、板厚が厚くなるほど下穴径を大きくする必要があります。下穴の径は、メーカーが標準的なものを公開しているので参考にできます。しかしながら、使用状況により変化する要素が多いため下穴の標準化は難しく、量産に使用する場合には試作を行い、最適な下穴径を確認する必要があります。

また、タッピンねじは締め付ける際の抵抗が大きいので、ねじ締めを行う際に電動工具やエアー工具等の動力工具を使用して締結作業を行うのが一般的です。

電動工具によるねじ締め

タッピンねじはなぜ普及したの

タッピンねじの歴史は意外に古く、最初のタッピンねじは1880年にドイツで発明されたと言われています。1914年には米国でも工業化が成し遂げられ、日本では1954年(昭和29年)に国産化に成功しました。

日本は第二次世界大戦後急速に復興し、瞬く間に大量生産大量消費の時代を迎えました。1950年代には電化製品(いわゆる白物家電)が一般家庭に手の届く商品となりはじめ、高価な自動車も続きました。こうした製品群では、厚さ1.0~1.2mm程度の鋼鈑(鉄板)が多く使用され、これらの薄板同士を締結するのにぴったりだったのがタッピンねじでした。それで1955年頃から家電や自動車等の量産ラインで使用されるようになりました。

こうした製品群は、鋼板のプレス加工の際に下穴(通称バカ穴、または裏側に返りのある突き出し穴(バーリング穴))をあらかじめ開け、この下穴に直接タッピンねじをねじ込むことで締結します。

プレス加工なら、鋼板に一度にたくさんの下穴を正確な位置に開けることができます。また、締結はナット及びワッシャーが不要なので片側で完結でき、作業は格段に行いやすくなります。さらに、時間を要するタップによるめねじ立て工程が不要となります。これらの理由により生産性が大幅に向上し、タッピンねじは市場の高い需要に対応するための理想的な締結ソリューションとなりました。


セルフタッピングねじの製品詳細についてはこちらをご覧ください。

「タッピンねじ2」では、タッピンねじがなぜセルフタッピングできるのか、その理由を探ります。

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